冪級数の収束円周上における収束例
本記事の題材は複素関数入門(神保道夫)第2章で例2.2で与えられている冪級数の収束円周上の収束パターンについて。
\( \begin{eqnarray}
f_0(z) &=& \frac{z}{1-z} \,=\, z+z^2+z^3+\cdots \\
f_1(z) &=& – \log (1-z) \,=\, z+\frac{1}{2}z^2+\frac{1}{3}z^3+\cdots \\
f_2(z) &=& \frac{1}{1^2}z+\frac{1}{2^2}z^2+\frac{1}{3^2}z^3+\cdots
\end{eqnarray}\)
(追記:公開直後に収束半径は係数比較で容易に求まることに気付いたが、テキストに沿った求め方はそのまま残しておく) これらの収束半径は全て 1 で、境界では \(f_0(z)\) は全く収束せず、\(f_1(z)\) は \(z\neq 1\) で収束、\(f_2(z)\) は全て収束する。 まず、これらの収束半径が 1 であること示す。一般項には次の関係がある。
\( \begin{equation} \displaystyle
|z^n| \geq \frac{1}{n}|z^n| \geq \frac{1}{n^2}|z^n| \tag{#}
\end{equation} \)
一般項が 0 に収束しなければ級数は発散する。\(|z|>1\) に対しては \( \displaystyle \frac{1}{n^2}|z^n| \rightarrow \infty \) だから、いずれの級数も発散する。\( |z| < 1 \) に対しては、\( f_0(z) \) が絶対収束するので、不等式 (#) よりいずれの級数も絶対収束する。
収束円周 \(|z|=1\) 上の収束性を議論する。\(f_0(z)\) は一般項が 0 に収束しないので発散する。\( \displaystyle \sum_{n=1}^N \left| \frac{z^n}{n^2} \right| \leq \zeta(2) \) だから \(f_2(z) \) は絶対収束。\( \displaystyle f_1(1) = \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n}\) より \(f_1(z)\) は \(z=1\) で発散する。\(f_1(z)\) が \(z=1\) を除いて \(|z|=1\) で収束することを示す。\( S_n=z+z^2+\cdots+z^n, \,S_0=0\) とおく。
\( \begin{eqnarray}
\sum_{n=1}^N \frac{z^n}{n}
&=& \sum_{n=1}^N \frac{1}{n}\left( S_n-S_{n-1}\right) \\
&=& \sum_{n=1}^N \frac{1}{n} S_n-\sum_{n=1}^N \frac{1}{n} S_{n-1} \\
&=& \frac{1}{N} S_N + \sum_{n=1}^{N-1} \frac{1}{n} S_n-\sum_{n=1}^{N-1} \frac{1}{n+1} S_{n} \\
&=& \frac{1}{N} S_N + \sum_{n=1}^{N-1} \left( \frac{1}{n} \,-\, \frac{1}{n+1} \right) S_{n} \\
&=& \frac{1}{N} \frac{z-z^{N+1}}{1-z} + \sum_{n=1}^{N-1} \left( \frac{1}{n} \,-\, \frac{1}{n+1} \right)\frac{z-z^{n+1}}{1-z} \\
&=& \frac{1}{N} \frac{z}{1-z} \, – \, \frac{1}{N} \frac{z^{N+1}}{1-z}
+ \frac{z}{1-z} \sum_{n=1}^{N-1} \left( \frac{1}{n} \,-\, \frac{1}{n+1} \right)\\
&&
\quad – \frac{1}{1-z} \sum_{n=1}^{N-1} \frac{1}{n(n+1)} z^{n+1} \\
\end{eqnarray} \)
最後の式で \(N\rightarrow\infty\) のとき、第1項、第2項は 0 に収束し、第3項は \( \displaystyle \frac{z}{1-z} \) に収束するので、第4項が収束することを示せば良い。和が絶対収束することを示す。
\(\begin{eqnarray}
\sum_{n=1}^{N-1} \left| \frac{1}{n(n+1)} z^{n+1} \right|
&\leq& \sum_{n=1}^{N-1} \frac{1}{n^2} \, \leq \, \zeta(2) \\
\end{eqnarray}\)
以上により、\(f_1(z)\) は \(|z|=1\,(z\neq 1) \) で収束する。
今回の例ではちょっとした疑問を感じる。通常見かける例では、収束円は特異点や分岐点により制限を受けて定まることが多い。ところが \( f_2(z) \) は収束円周上で全て収束する。収束円が制限を受ける理由は何かあるのだろうか。
アーベルの級数変形法
\(f_1(z)\) の収束性に関する議論でアーベルの級数変形法を用いた。少し調べたので纏めておこう。2つの数列 \( \{a_n\},\,\{b_n\} \) があって、和 \( \displaystyle \sum_{n=1}^N a_n b_n \) を書き換える手順である。\( \displaystyle A_n=\sum_{k=1}^n a_n\, (A_0=0) \) とする。
\(\begin{eqnarray}
\sum_{n=1}^N a_n b_n
&=& \sum_{n=1}^N ( A_n -A_{n-1} ) b_n \\
&=& \sum_{n=1}^N A_n b_n \,-\, \sum_{n=1}^N A_{n-1} b_n \\
&=& A_N b_N + \sum_{n=1}^{N-1} A_n b_n \,-\, \sum_{n=1}^{N-1} A_{n} b_{n+1} \\
&=& A_N b_N \,-\, \sum_{n=1}^{N-1} A_n (b_{n+1} – b_n) \\
\end{eqnarray}\)
上の例では \( \displaystyle a_n=z^n,\,b_n=\frac{1}{n} \) として適用した。