群の弱い公理

題材は 現代代数学特論(エミール・アルティン)から。たまたまこの本が出版されているのに気付き、絶版になる前にすかさず購入。

群の公理

一般的に群の公理は以下のように与えられる。

  1. 結合則
    \( (ab)c=a(bc) \)
  2. 単位元 \(e\) の存在
    任意の \(a\) に対して \(ae=ea=a\)
  3. 逆元の存在
    任意の \(a\) に対して、\( ab = ba =e \) を満たす \(b\) が存在し、この \(b\) を \(a^{-1}\) で表す。(2.で単位元の一意性は保証されていないが、公理3.に現れる単位元 \(e\) は 2.で指定された元である)

単位元や逆元の一意性は要求されていないが、一意になることが証明できるので不要である。

群の弱い公理

群の公理を以下のように弱める。

  1. 結合則
    \( (ab)c=a(bc) \)
  2. 左単位元 \(e\) の存在
    任意の \(a\) に対して \(ea=a\)
  3. 左逆元の存在
    任意の \(a\) に対して、\( ba =e \) を満たす \(b\) が存在し、この \(b\) を \(a^{-1}\) で表す。

当然ながら、右単位元と右逆元の存在を仮定しても良い。しかし、左単位元と右逆元ではうまくいかない例については後で触れる。

証明

(左逆元が右逆元であること)

\(a\) の左逆元を \(b\) とすると、\(ba=e\)。このとき \(ab=e\) を示せばよい。\(b\) の左逆元\(c\) も存在して、\(cb=e\)。\(ba=e\) の両辺に \(c\) を左から掛けて \(a=c\) を得る。さらに\( b\) を右から掛けて \(ab=cb=e\) となり、右逆元であることが証明された。

(逆元の一意性)

\(a\) の左逆元 \(b,b’\) が一致することを示す。左逆元は右逆元だから、\(ba=ab=e\)。\(b’a=e\) の両辺に \(b\) を右から掛けて \(b’ab=b’=eb=b\) を得る。よって、逆元の一意性が証明された。

(左単位元が右単位元であること)

任意の元 \(a\) に対して、結合則より等式 \( \left( a^{-1}a \right) a=a \left( a^{-1}a \right) \) が成り立つ。この両辺を計算して \( ea =ae \) を得る。

(単位元の一意性)

左単位元 \(e’\) を任意に取り、\(e=e’\) を示す。\(e,\,e’\) が左単位元であることから \( ee’=e’,\,e’e=e \)。\(e\) が右単位元でもあることから \(ee’=e’e\) となり、\(e=e’\) が示された。

左単位元と右逆元の存在では群にならない

この事実はテキストに練習問題として与えられているだけで、解答は提示されていない。私の解答例は新たな左単位元 \(e’\) を追加し、\(\{e,e’\}\) である。2つの元はどちらも左単位元なので、乗法表は次のようになる。

\(e\)\(e’\)
\(e\)\(e\)\(e’\)
\(e’\)\(e\)\(e’\)

一般に \(a_1 a_2 \cdots a_n =a_n\) が成り立つ。これは、すべての \(a_i\) が左単位元であることから分かる。このことから結合則が成り立つ。乗法表から \( e, e’ \) 共に右逆元は \(e\) となる。以上により、この例は左単位元と右逆元を持つが群ではない。群でないことは、例えば \( e’e=e \) より \(e\) が右単位元でないことからも分かる。

左単位元、右逆元の存在に、左単位元の一意性を公理に加えれば群になるだろうか。時間があれば検討してみたいとは思う。