一意分解整域でない整数環の部分環

一意分解でない整域の例としては Z[5] がよく取り上げられるが、これは Q(5) が類数1でないことから得られる。よりシンプルな例として Z[3] があるが、 Q(3) の類数が1であることから意外に思った。専門家に聞くと「部分環だからね」とだけ言われて、その背景にあるものは分からなかった。最近になって、より一般的な事実を見つけたので記録する。

準備

整数論(森田)の命題4.6を使う。証明は自分が分かりやすいように記述する。

命題4.6
R を一意分解環、K をその商体とする。このとき RK の中で整閉である。

R 上整である K の元 αR に属さないとする。KR の商体だから、互いに素な β,γR により α=βγ と表される。γR の素元なら αR となり仮定に反する。したがって、γ を割る R の素元 p がある。 αR 上整だから、αn+an1αn1++a0=0 を満たす a0,,an1R が存在する。 α=βγ を代入して、βn=an1βn1γa0γn となる。右辺は p で割り切れる。β,γ は互いに素だから、βp で割り切れない。左辺は p で割り切れないので矛盾。したがって、R 上整である K の元は R に属する。

一意分解整域でない整数環の部分環

次の系列がシンプルだと思う。

平方因子を含まない m1 (mod 4) について Z[m] は一意分解整域でない。

Z[m] の商体は Q(m) であり、 Q(m) の整数環は Z[1+m2] である。したがって、Z[m]Q(m) の中で整閉でない。命題4.6より Z[m] は一意分解整域でない。

他にも同様の例はいくらでもできる。Z[1] の部分環 Z[21] も一意分解整域でない。整数環の部分環が一意分解整域になるのは、部分体の整数環に一致する場合だけか。

感想

Z[3] が一意分解整域でないことを初めて知ったときには驚きがあったが、ここに至ってなんら例外的ではない事実と分かった。教科書的には ZZ[1] で一意分解整域を学んだ後で一意分解でない整域の存在を学び、一意分解でない方が例外的な印象を持つけど、むしろ一意分解整域の例をたくさん提示する方が難しい気がしてきた。