体の乗法群の有限部分群

はじめに

体の乗法群の有限部分群は巡回群である。特に有限体の乗法群は巡回群である。教科書によっては扱っていない内容のようで、証明を探すのに意外と手間取った。アルティン著「ガロア理論入門」を参考にした。これだけの名著がちくま学芸文庫になって安く手に入るのは有難いことである。私は学生時代にハードカバー版を購入した。本記事では、「第2章 10.アーベル群とその応用」を参考にした。

準備

必要となるのは次の補題である。

補題

有限アーベル群 \(G\) の最大位数を \(r\) とすると、\(G\) の任意の元の位数は \(r\) の約数である。

アルティンは初等的な方法で証明した後、「有限生成アーベル群に関する基底定理を用いても証明することができる」と記している。実際には次の有限アーベル群の構造定理で十分である。

有限アーベル群の構造定理

有限アーベル群 \(G\) は巡回群の直積 \( \left({\bf Z}/r_1{\bf Z}\right)\times \left({\bf Z}/r_2{\bf Z}\right) \times \cdots \times \left({\bf Z}/r_s{\bf Z}\right) \) に同型であり、\( r_{i+1} \) は \( r_i \) の約数である。

有限アーベル群の構造定理を認めれば、補題は明らかに近い。\( (1,0,\cdots,0) \) の位数は \(r_1\) である。\( g = (g_1,g_2,\cdots,g_s) \in G \) に対して、\( r_1 g=(r_1 g_1, r_1 g_2,\cdots,r_1g_s) \)。\( r_i g_i=0 \) と \( r_i \) が \(r_1\) の約数であることから、\( r_1 g = (0,0,\cdots,0) \) が分かる。したがって、\(G\) の最大位数は \(r_1\) で、任意の元の位数は \(r_1\) の約数である。

証明

次の定理が目標である。

体 \(K\) の乗法群の有限部分群 \(S\) は巡回群である。

\(S\) の位数を \(n\)、元の最大位数を \(r\) とすると、\(S\) の任意の元は位数が \(r\) の約数だから \(x^r=1\) を満たす。\(x^r=1\) の解の個数は \(r\) 以下なので \(r \geqq n \)。\(S\) は群だから、任意の元の位数は \(n\) の約数。特に \(r\) も \(n\) の約数であり、\( n \geqq r \)。よって、\(n=r\) であり、\(S\) は巡回群である。