Cauchy 型積分という用語はたぶん聞いたことが無いと思う。私も 複素関数論(岸、藤本) で見かけただけで他に見たことがない。
Cauchy の積分公式と Cauchy 型積分
Cauchy の積分公式は良く知られている。閉曲線 \(C\) の内部で正則な関数 \(f(z)\) について
\( \begin{eqnarray}
f(z) &=& \frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(\zeta)}{\zeta\,-\,z}\,d\zeta
\end{eqnarray} \)
が成り立つ。右辺は \(C\) の内部の条件には関係なく定義でき、内部で正則という条件を課すと \( f(z) \) になるといのが Cauchy の積分公式である。内部における条件を取り除いて、\(C\) 上で連続な関数 \(\varphi(z)\) に対して、積分で表された関数 \( \displaystyle f(z)=\int_C \frac{\varphi(\zeta)}{\zeta \,-\,z} \,d\zeta \) を Cauchy 型積分と定義する。内部における条件を特に課さなくても、それなりに \(f(z)\) は良い性質をもつことを示していく。
\(f(z)\) の正則性
複素関数論講義(野村) では 例題 7.25 で\(f(z)\) の正則性を示している。\( C \) は区分的に滑らかな単純閉曲線としておく。
\({\bf C} \setminus C\) で \(f(z)\) は正則で \( \displaystyle f'(z)=\int_C\frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta \,-\,z)^{n+1}} \,d\zeta \)
(証明)
\( a \not\in C \) とする。
\(\begin{eqnarray}
\frac{f(z)-f(a)}{z-a}
&=& \frac{1}{z-a}\int_C \varphi(\zeta) \left( \frac{1}{\zeta\,-\,z}-\frac{1}{\zeta\,-\,a} \right) \,d\zeta \\[1mm]
&=& \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta\,-\,z)(\zeta\,-\,a)} \,d\zeta \\
\end{eqnarray}\)
ここで \(z\rightarrow a\) として収束するなら \(f(z)\) は \(z=a\) で正則である。 \( \displaystyle \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta \,-\,a)^2}\,d\zeta \) に収束することを示そう。
\(\begin{eqnarray}
\frac{f(z)-f(a)}{z-a} \,- \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta \,-\,a)^2}\,d\zeta
&=& (z\,-\,a) \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta\,-\,z)(\zeta\,-\,a)^2} \,d\zeta \\
\end{eqnarray}\)
したがって、\( \displaystyle \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta\,-\,z)(\zeta\,-\,a)^2} \,d\zeta \) が有界であることを示せば、\(z-a\) が 0 に収束することから全体も 0 に収束する。\(a\) と \(C\) の距離を \(d\) とする。\(z\) は \(a\) の近傍だけを考えればよいから、\( |z\,-\,a| < \frac{d}{2} \) とすれば、 \(z\) と \(C\) の距離は \( \frac{d}{2} \) 以上であり、分母は \( |(\zeta\,-\,z)(\zeta\,-\,a)^2| \geq \frac{d^3}{4}\) と評価できる。\( \varphi(\zeta) \) は \(C\) 上で連続だから最大値 \(M\) をもつ。また、積分路の長さを \(L\) とすると、
\( \begin{eqnarray}
\left| \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta\,-\,z)(\zeta\,-\,a)^2} \,d\zeta \right|
&\leq& \int_C \left| \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta\,-\,z)(\zeta\,-\,a)^2}\right| \,\left| d\zeta\right| \\[3mm]
&\leq& \frac{4ML}{d^3}
\end{eqnarray} \)
と評価できて、有界である。
冪級数展開と \( f^{(n)}(z) \) の積分表示
上で \(f(z)\) が正則であることが分かったので、\(a \in {\bf C} \setminus C \) の周りで冪級数展開が可能である。冪級数展開 \( \displaystyle f(z)=\sum_{n=0}^\infty \frac{f^{(n)}(a)}{n!} (z-a)^n\) は一意に定まるので、冪級数展開が求まれば \(f^{(n)}(z)\) も求まる。複素関数論(岸、藤本) では \(\S2.3 \) 定理2 で冪級数展開および \( f^{(n)}(z) \) の積分表示を求めている。上の証明と同じく、\(M,\,L\,d\) はそれぞれ \(\varphi(z)\) の \(C\) 上の最大値、積分路 \(C\) の長さ、\(a\) と \(C\) の距離を表すものとする。
\( \displaystyle f^{(n)}(z) = n! \, \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta-z)^{n+1}}\,d\zeta \)
\(f(z)\) が \(C\) の内部で正則の場合は、グルサの定理 \( \displaystyle f^{(n)}(z) = \frac{n!}{2\pi i} \, \int_C \frac{f(z)}{(\zeta-z)^{n+1}}\,d\zeta \) が良く知られている。
(証明)
\(z\) は \(a\) の近傍にあるとして、\(|z-a|<\frac{d}{2}\) を満たすとする。このとき、\(z\) と \(C\) の距離は \(\frac{d}{2}\) 以上である。\(\zeta \in C \) なので、\(|z-a|<|\zeta-a|\) に注意すると、次式が得られる。
\( \begin{eqnarray}
\frac{\varphi(\zeta)}{\zeta-z}
&=& \frac{\varphi(\zeta)}{\zeta-a} \cdot \frac{1}{1-\frac{z-a}{\zeta-a}} \\
&=& \frac{\varphi(\zeta)}{\zeta-a}
\sum_{n=0}^\infty \left(\frac{z-a}{\zeta-a}\right)^n \\
&=& \sum_{n=0}^\infty \frac{\varphi(\zeta)\left(z-a\right)^n}{(\zeta-a)^{n+1}}\\
\end{eqnarray} \)
\(\zeta\) を変数と見てこの冪級数は各点収束するが、さらに一様収束することを示そう。
\(\begin{eqnarray}
\left| \frac{\varphi(\zeta)}{\zeta-z} \,-\, \sum_{n=0}^m \frac{\varphi(\zeta)\left(z-a\right)^n}{(\zeta-a)^{n+1}} \right|
&=& \left| \sum_{n=m+1}^\infty \frac{\varphi(\zeta)\left(z-a\right)^n}{(\zeta-a)^{n+1}} \right| \\[1mm]
&\leq& \sum_{n=m+1}^\infty \left|\frac{\varphi(\zeta)\left(z-a\right)^n}{(\zeta-a)^{n+1}} \right| \\[1mm]
&\leq& \sum_{n=m+1}^\infty \left|\frac{M\left(\frac{d}{2}\right)^n}{d^{n+1}} \right| \\[1mm]
&=& \frac{M}{d}\sum_{n=m+1}^\infty \frac{1}{2^n} \\[1mm]
&=& \frac{M}{2^m d} \rightarrow 0 \quad(m\rightarrow \infty)
\end{eqnarray}\)
最後の収束は \(\zeta\) に依存しないから、一様収束である。したがって、\(\zeta\) に関する積分と無限和の交換ができるから
\( \begin{eqnarray}
f(z)
&=& \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{\zeta \,-\,z}\,d\zeta \\[1mm]
&=& \int_C \sum_{n=0}^\infty\frac{\varphi(\zeta)\left(z-a\right)^n}{(\zeta-a)^{n+1}}\,d\zeta \\[1mm]
&=& \sum_{n=0}^\infty \left( \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta-a)^{n+1}}\,d\zeta \right) \left(z-a\right)^n\\[1mm]
\end{eqnarray} \)
が得られ、これは \(f(z)\) の冪級数展開である。冪級数展開の一意性から
\( \begin{eqnarray}
\frac{f^{(n)}(z)}{n!} &=& \int_C \frac{\varphi(\zeta)}{(\zeta-a)^{n+1}}\,d\zeta
\end{eqnarray} \)
が得られる。
例
\(\varphi(z)\) が非正則な場合、\(f(z)\) はどうなるのだろうか。例として \( \varphi(z)=\overline{z} \) の場合を計算してみた。積分路は単位円 \(|z|=1\) を反時計回りとした。積分路上では \(\overline{z}=\frac{1}{z}\) であることを使えば、留数定理により容易に求まる。
\(\begin{eqnarray}
f(z) &=& \int_{|\zeta|=1} \frac{\overline{\zeta}}{\zeta \,-\, z}\,d\zeta \\[1mm]
&=& \int_{|\zeta|=1} \frac{1}{\zeta \,(\zeta \,-\, z)}\,d\zeta \\[1mm]
&=& \frac{1}{z}\int_{|\zeta|=1} \left( \frac{1}{\zeta \,-\, z} \,-\, \frac{1}{\zeta} \right) \,d\zeta \\[1mm]
&=& \frac{1}{z} \int_{|\zeta|=1} \frac{1}{\zeta \,-\, z} \,d\zeta \,-\, \frac{2\pi i}{z}
\end{eqnarray}\)
\(|z|>1\) のときは \( f(z)=-\frac{2\pi i}{z} \)、\(|z|<1\) のときは \(f(z)=0\) となり、確かに \( f(z) \) は \(C\) 上を除いて正則であることが分かる。