Legendreの倍数公式は、別記事 ガンマ関数 3つの定義 でも証明したが、有理型関数(新井仁之) で Liouville の定理 を使った証明を見かけたので取り上げた。
倍数公式
Legendreの倍数公式は
\( \begin{eqnarray}
\Gamma(2z) &=& \frac{2^{2z-1}}{\sqrt{\pi}} \, \Gamma(z)\,\Gamma\left(z+\frac{1}{2}\right)
\end{eqnarray} \)
と表される。証明には倍数公式を \(z\) を \(\frac{z}{2}\) で置き換えた形式にして
\( \begin{eqnarray}
f(z)
&=&\frac{2^{z-1}}{\sqrt{\pi}} \,
\Gamma\left(\frac{z}{2}\right)\,\Gamma\left(\frac{z+1}{2}\right) \\[3mm]
g(z)
&=& f(z) \,-\, \Gamma(z)
\end{eqnarray} \)
とおき、\(g(z)=0\) を示す。
\(g(z)\) の正則性
\(f(z), \Gamma(z) \) はいずれも正でない整数で1位の極を持つ。これらが同じ主要部をもてば、打ち消し合って \(g(z)\) が正則になる。\(n\) を負でない整数とする。公式 \( \Gamma(z+1)=z \, \Gamma(z) \) を使えば、\(\Gamma (z) = \frac{\Gamma(z+n+1)}{z(z+1)\cdots(z+n)}\) となって、\(z=-n\) の近傍を \( {\mathrm Re}\,z > 0 \) における式を使って解析できる。\(z=-n\) における \(\Gamma(z)\) の留数を求める。
\( \begin{eqnarray}
\mathop{\rm Res}\limits_{z=-n} \Gamma(z)
&=& \lim_{z\rightarrow -n} (z+n)\Gamma(z) \\[1mm]
&=& \lim_{z\rightarrow -n} \frac{\Gamma(z+n+1)}{z(z+1)\cdots(z+n-1)} \\[1mm]
&=& \frac{(-1)^n}{n!}
\end{eqnarray} \)
\( n \) が偶数の場合、 \(n=-2m\) として第1項の留数を求める。\( z=-2m \) の近傍における式を\( {\mathrm Re}\,z > 0 \) における式に書き換える。
\( \begin{eqnarray}
f(z)
&=& \frac{2^{z-1}}{\sqrt{\pi}}
\cdot \frac{\Gamma(\frac{z}{2}+m+1)}{\frac{z}{2}\frac{z+2}{2}\cdots\frac{z+2m}{2}}
\cdot \frac{\Gamma(\frac{z+1}{2}+m)}{\frac{z+1}{2}\frac{z+3}{2}\cdots\frac{z+2m-1}{2}} \\[3mm]
&=& \frac{2^{z+2m}}{\sqrt{\pi}}
\cdot \frac{\Gamma(\frac{z}{2}+m+1)\,\Gamma(\frac{z+1}{2}+m)}{z(z+1)\cdots(z+2m)}
\end{eqnarray} \)
留数を求めると
\( \begin{eqnarray}
\mathop{\rm Res}\limits_{z=-2m} f(z)
&=& \lim_{z\rightarrow -2m} (z+2m) \, f(z) \\[1mm]
&=& \frac{1}{\sqrt{\pi}}\lim_{z\rightarrow -2m} \frac{\Gamma\left(\frac{z}{2}+m+1\right)\,\Gamma\left(\frac{z+1}{2}+m\right)}{z(z+1)\cdots(z+2m-1)} \\[1mm]
&=& \frac{1}{\sqrt{\pi}}\frac{\Gamma(1)\,\Gamma(\frac{1}{2})}{(2m)!}
\,=\, \frac{1}{n!}
\end{eqnarray} \)
となり、\(\Gamma(z)\) と同じ留数が得られる。\(n=-2m-1\) の場合を議論する。
\( \begin{eqnarray}
f(z)
&=& \frac{2^{z-1}}{\sqrt{\pi}}
\cdot \frac{\Gamma(\frac{z}{2}+m+1)}{\frac{z}{2}\frac{z+2}{2}\cdots\frac{z+2m}{2}}
\cdot \frac{\Gamma(\frac{z+1}{2}+m+1)}{\frac{z+1}{2}\frac{z+3}{2}\cdots\frac{z+2m+1}{2}} \\[3mm]
&=& \frac{2^{z+2m+1}}{\sqrt{\pi}}
\cdot \frac{\Gamma(\frac{z}{2}+m+1)\,\Gamma(\frac{z+1}{2}+m+1)}{z(z+1)\cdots(z+2m+1)}
\end{eqnarray} \)
留数を求める。
\( \begin{eqnarray}
\mathop{\rm Res}\limits_{z=-2m-1} f(z)
&=& \lim_{z\rightarrow -2m-1} (z+2m+1) \, f(z) \\[1mm]
&=& \frac{1}{\sqrt{\pi}}\lim_{z\rightarrow -2m-1} \frac{\Gamma\left(\frac{z}{2}+m+1\right)\,\Gamma\left(\frac{z+1}{2}+m\right)}{z(z+1)\cdots(z+2m)} \\[1mm]
&=& \frac{-1}{\sqrt{\pi}}\frac{\Gamma(\frac{1}{2})\,\Gamma(1)}{(2m+1)!}
\,=\, \frac{-1}{n!}
\end{eqnarray} \)
この場合も \(\Gamma(z)\) の留数と等しい。以上で、\(f(z),\,\Gamma(z)\) の主要部は同じであることが分かったので、\(g(z)\) は正則である。
\(g(z+1)=z\,g(z)\)
\( g(z+1)=z\,g(z) \) を示す。\( \Gamma(z+1)=z\,\Gamma(z) \) だから \( f(z+1)=z\,f(z) \) を示せば良い。
\( \begin{eqnarray}
f(z+1)
&=& \frac{2^{z}}{\sqrt{\pi}} \,
\Gamma\left(\frac{z+1}{2}\right)\,\Gamma\left(\frac{z+2}{2}\right) \\
&=& \frac{2^{z}}{\sqrt{\pi}} \,
\Gamma\left(\frac{z+1}{2}\right) \cdot \frac{z}{2} \, \Gamma\left(\frac{z}{2}\right) \\
&=& \frac{z\,2^{z-1}}{\sqrt{\pi}} \,
\Gamma\left(\frac{z}{2}\right) \, \Gamma\left(\frac{z+1}{2}\right) \\
&=& z\,f(z)
\end{eqnarray} \)
\(0 \leq {\mathrm Re} \,z \leq 2 \) における \(g(z)\) の有界性
\(\frac{1}{2} \leq {\mathrm Re} \,z \leq 2 \) において \( \Gamma(z) \) が有界であることを示す。まず、\(z\) が実数の時を考える。閉区間 \( [\frac{1}{2} , 2] \) で \(\Gamma(z)\) は連続なので、最大値 \(M\) が存在して \( 0<\Gamma(z) \leq M \) となり、有界である。次に複素数の場合を考える。
\(\begin{eqnarray}
|\Gamma(z)|
&\leq& \int_0^\infty \left| e^{-t} t^{z-1} \right|\,dt \\[1mm]
&=& \int_0^\infty \left| e^{-t} e^{(z-1)\log t} \right|\,dt \\[1mm]
&=& \int_0^\infty \left| e^{-t} e^{({\mathrm Re}\,z-1)\log t} \right|\,dt \\[1mm]
&=& \int_0^\infty e^{-t} t^{{\mathrm Re}\,z-1} \,dt \\[1mm]
&=& \Gamma\left( {\mathrm Re}\,z \right)\,\leq\, M
\end{eqnarray} \)
よって、\(\frac{1}{2} \leq {\mathrm Re} \,z \leq 2 \) において、\( \Gamma(z) \) は有界である。
\(1 \leq {\mathrm Re} \,z \leq 2 \) における \(g(z)\) の有界性を示す。\( \frac{1}{2} \leq {\mathrm Re} \,\frac{z}{2} \leq 1,\, 1 \leq {\mathrm Re} \,\frac{z+1}{2} \leq \frac{3}{2}\) だから、\( \Gamma\left(\frac{z}{2}\right)\) と \( \Gamma\left(\frac{z+1}{2}\right)\) はいずれも有界である。\(\left|2^{z-1}\right| = \left|e^{(z-1)\log 2}\right| = \left|e^{({\mathrm Re}\,z-1)\log 2}\right| = \left|2^{{\mathrm Re}\,z-1}\right| \) だから、\(\left|2^{z-1}\right| \leq 2\) となる。よって、\(f(z)\) は有界である。\(\Gamma(z)\) も有界だったので、\(g(z)\) も有界である。
\(0 \leq {\mathrm Re} \,z \leq 1 \) における \(g(z)\) の有界性を示す。\(g(z)\) は正則だから、特に \(z=0\) で連続であり、ある \(c>0\) が存在して、\(|z|<c\) で \(g(z)\) は有界である。\(|z|\geq c\) のとき、\( |g(z)| = \left|\frac{g(z+1)}{z}\right| \leq \frac{|g(z+1)|}{c}\) である。\(1 \leq {\mathrm Re} \,z \leq 2 \) における \(g(z)\) の有界性は既に示したから、\(0 \leq {\mathrm Re} \,z \leq 1 \) において \(g(z)\) は有界である。
\(g(z)=0\) の証明
\(g(z)=0\) を示して証明を完了する。\(g(z)=0\) を直接示すのではなく、補助的に \(G(z)=g(z)\,g(1-z)\) を考えて \(G(z)=0\) を証明する。\(0 \leq {\mathrm Re} \,z \leq 1 \) のとき、\(0 \leq {\mathrm Re} \,(1-z) \leq 1 \) でもあるから、\(G(z)\) は有界である。
\( \begin{eqnarray}
G(z+1)
&=& g(z+1) \, g(-z) \quad \left( \,=\, G(-z) \right)\\
&=& z\,g(z) \cdot \frac{g(1-z)}{-z} \quad \left( \,=\, -G(z) \right) \\
\end{eqnarray} \)
よって、\( G(z+1) = G(-z) = – \,G(z) \) が示された。\( n < {\mathrm Re}\, z \leq n+1 \) のとき、\( G(z) = (-1)^n G( z-n ) \) より、\({\mathrm Re}\, z \geq 0 \) で \(G(z)\) は有界である。\({\mathrm Re}\, z < 0 \) のときは \( G(-z) = – \, G(z) \) から有界である。したがって、\(G(z)\) は \( \bf C\) 上で有界だから、Liouville の定理より定数。\( g(1)=f(1)-\Gamma(1)=\frac{1}{\sqrt{\pi}}\,\Gamma(\frac{1}{2})\,\Gamma(1) \,-\, 1 =0\) だから \(G(z)=G(1)=g(1)\,g(0)=0\)。 有理型関数(新井) では、ここから直ちに \(g(z)=0\) と結論しているが、自明なのだろうか。私には分からなかったので、もう少し議論する。ある \(\alpha\) において \(g(\alpha)\neq 0\) と仮定する。\(g(z)\) は連続なので、\(\alpha\) の近傍で \(g(\alpha)\neq 0\) であり、\(g(1-z)=0\) が成り立つ。これは \( z=1-\alpha\) の近傍で \( g(z)=0 \) を示している。一致の定理により、\( \bf C\) 上で \( g(z)=0 \) である。結論が仮定に矛盾しているので、むしろ背理法により \( g(\alpha)\neq 0 \) となる \(\alpha\) は存在しないと解するべきか。