ほとんどの微積分の教科書で公式 \( \displaystyle \int \frac{dx}{\sqrt{x^2+1}} = \log\left(x + \sqrt{x^2+1}\right) + C \) は紹介されている。一番さぼった証明は右辺を微分することであるが、多くの教科書では \( x=t+\sqrt{t^2+1} \) と置き換える方法を採用している。この置き換えは一応は定跡手順とされているが、この着想自体が理解しがたいだろう。一部の教科書(小林昭七著「微分積分読本 1変数」など)では、\( x=\sinh t \) と置き換える方法を紹介している。これは双曲線関数の公式 \( \cosh^2 t \,-\, \sinh^2 t = 1 \) より \( x^2+1=\sinh^2 t + 1 = \cosh^2 t \) となり根号が外れるという戦略であり、置き換えの理由が分かりやすい。本記事ではもう少し踏み込んでみよう。
\( x = \sinh t \) による置き換え
\( x = \sinh t \) で置き換えて求めてみよう。\( \displaystyle \frac{dx}{dt} = \cosh t \) より
\( \begin{eqnarray}
\int \frac{dx}{\sqrt{x^2+1}}
&=& \int \frac{1}{\sqrt{\cosh^2 t}} \frac{dx}{dt} \,dt
= \int \frac{1}{\cosh t} \, \cosh t \,dt \\
&=& \int dt = t + C = \sinh^{-1} x + C
\end{eqnarray} \)
これで一応は求まっているが、多くの教科書とは表現が異なる。\(t\) から \(x\) への返還を変えてみよう。\( \displaystyle x = \sinh t = \frac{e^t-e^{-t}}{2} \) より
\( \begin{eqnarray}
&& \displaystyle e^{2t} -2x e^t -1 = 0 \\
&& e^t = x+\sqrt{x^2+1} \\
&& t= \log \left( x+\sqrt{x^2+1} \right)
\end{eqnarray}\)
これで、多くの教科書と同じ結果 \( \log \left( x+\sqrt{x^2+1} \right) +C \) を得る。
\( \displaystyle x = \frac{1}{2}\left( u -\frac{1}{u} \right) \) による置き換え
先ほどは \( \displaystyle x = \sinh t = \frac{e^t-e^{-t}}{2} \) と置き換えたが、指数関数が必要だろうかと疑問を感じ、\( u=e^t \) と考えれば \( \displaystyle x = \frac{1}{2}\left( u \,-\, \frac{1}{u} \right) \) となる。これで導出が少し簡単にならないだろうか。\( \displaystyle u \, – \, \frac{1}{u} \) は2対1関数であり、後のために \( u>0 \) を採用しておく。\( e^t > 0 \) ではあるが、\( u < 0 \) とすることは可能である。
\( \begin{eqnarray}
x^2+1
&=& \frac{1}{4} \left( u^2 \,-\, 2 + \frac{1}{u^2} \right) +1
= \frac{1}{4} \left( u^2 + 2 + \frac{1}{u^2} \right)
= \frac{1}{4}\left( u + \frac{1}{u} \right)^2 \\[5mm]
\sqrt{x^2+1}
&=& \frac{1}{2}\left( u + \frac{1}{u} \right) \\[5mm]
\frac{dx}{du}
&=& \frac{1}{2}\left( 1+ \frac{1}{u^2} \right) \\[5mm]
\int \frac{dx}{\sqrt{x^2+1}}
&=& \int \frac{1}{\frac{1}{2}\left( u + \frac{1}{u} \right)} \cdot \frac{1}{2}\left( 1+ \frac{1}{u^2} \right) \,du
= \int \frac{1}{u} \,du
= \log u + C
\end{eqnarray} \)
\( \displaystyle x = \frac{1}{2}\left( u -\frac{1}{u} \right) \) より
\( \begin{eqnarray}
&& \displaystyle u^2 \,- 2x u -1 = 0 \\
&& u = x \pm \sqrt{x^2+1}
\end{eqnarray}\)
根号の符号を決定しなければならないが、\(-\) にすると \( u<0 \) となるので符号は \(+\)。これで \( \log \left( x+\sqrt{x^2+1} \right) +C \) が得られた。
補足
\( x=\sinh t,\, y=\cosh t \) とパラメータ表示された曲線は双曲線の上半分である。問題の積分は双曲線の積分 \( \displaystyle \int \frac{dx}{y} \) と考えることが出来る。パラメータ表示 \( \displaystyle x=\frac{1}{2}\left( u-\frac{1}{u} \right),\,y=\frac{1}{2}\left( u+\frac{1}{u} \right) \) では双曲線の上下共に表され、\( u>0 \) と制限すると上半分になる。