\( \displaystyle \int \frac{dx}{\sqrt{x^2-1}} \) を前回と同じように求めてみよう。根号の中が正である必要があるので、\( x > 1 \) または \( x < -1 \) となる。ここでは \( x > 1 \) を前提とする。
\( x = \cosh t \) による置き換え
\( \sinh^2 t = \cosh^2 t -1 \) に着目して \( x = \cosh t \) と置くと上手く行きそうである。\( \cosh t \) は2対1なので、\( t > 0 \) としておく。
\( \begin{eqnarray}
\frac{dx}{dt} &=& \sinh t \\
x^2 \,-\, 1 &=& \cosh^2 t \,-\,1 = \sinh^2 t
\end{eqnarray} \)
\( t > 0 \) すなわち \( \sinh t > 0 \) に注意して
\( \begin{eqnarray}
\int \frac{dx}{\sqrt{x^2-1}}
&=& \int \frac{1}{\sinh t} \cdot \sinh t \, dt = \int dt = t + C
\end{eqnarray} \)
\( \displaystyle \cosh t = \frac{e^t+e^{-t}}{2}\) より \( e^{2t} -2x e^t +1 = 0 \)。ここで \( \displaystyle t = \log \left( x \pm \sqrt{x^2-1} \right) \) の符号を決定しなければならない。\( t = \alpha \) が解であれば、\( t = – \, \alpha \) も解。したがって、\( \displaystyle e^t = x \pm \sqrt{x^2-1} \) の一方が1以上で他方が1以下である。\( t > 0 \) なので、大きい方が求める解であり、\( \displaystyle t = \log \left( x + \sqrt{x^2-1} \right) \) と確定する。よって、
\( \displaystyle \int \frac{dx}{\sqrt{x^2-1}} = \log \left( x + \sqrt{x^2 \,-\, 1} \right) + C \)
が得られた。
\( \displaystyle x = \frac{1}{2}\left( u + \frac{1}{u} \right) \) による置き換え
置き換え \( \displaystyle x = \cosh t = \frac{e^t+e^{-t}}{2} \) で \( u = e^t \) とすれば、\( \displaystyle x = \frac{1}{2}\left( u+\frac{1}{u}\right) \) となる。これは2対1なので \( u \) の範囲を制限する。\(u\) を \( \displaystyle \frac{1}{u} \) に置き換えても変わらないことに注意して、\( u > 1 \) とすれば \( \displaystyle u > 1 > \frac{1}{u} > 0 \)。\( \displaystyle x^2-1 = \frac{1}{4}\left( u-\frac{1}{u}\right)^2 \) の根号を取って、\( \displaystyle \sqrt{x^2-1} = \frac{1}{2}\left( u-\frac{1}{u}\right) \)。また、\( \displaystyle \frac{dx}{du} = \frac{1}{2}\left( 1-\frac{1}{u^2}\right) \)。
\( \begin{eqnarray}
\int \frac{dx}{\sqrt{x^2-1}}
&=& \int \frac{2}{u-\frac{1}{u}} \cdot \frac{1}{2}\left( 1-\frac{1}{u^2}\right) \,du \\
&=& \int \frac{1}{u} \,du \\
&=& \log u + C
\end{eqnarray} \)
この式を \( x \) で書き直す。\( \displaystyle x = \frac{1}{2}\left( u+\frac{1}{u}\right) \) より \( u^2 \, – \, 2xu +1 = 0 \) 。この解 \( u = x \pm \sqrt{x^2-1} \) のうち求める解は \( u > 1 \) で他方は \( 1 > u > 0 \) だから、\( u = x + \sqrt{x^2-1} \) が求める解。これを代入して結論が得られる。
補足
2回に渡って4通りの置換を見てきたが、これまでに書籍で見かけたのは \( x=\sinh t \) だけである。1対1対応の置換以外は扱い辛いからだろうか。ここまでの考察では、2種類の積分で異なる置換をした。多くの教科書で採用されている置換 \( t = x + \sqrt{x^2+a} \) では、2種類の積分が同時に解決できる。これは大きな利点だと思う。