正弦関数の無限積表示

\( \sin \pi z \) の無限積表示を求める。方針は 複素関数入門(神保道夫) を参考にした。

\( \sin \pi z \) の無限積表示

\( \sin \pi z \) を無限積表示

\( \begin{eqnarray}
\sin \pi z &=& \pi z \prod_{n=1}^\infty \left( 1 \,-\, \frac{z^2}{n^2} \right)
\end{eqnarray} \)

と表すのが目標である。\(z\) が整数の時は両辺共に 0 であり、確かに零点は一致している。\( \displaystyle \sin \pi z = \pi z \prod_{n=1}^\infty \left( 1 \,-\, \frac{z}{n} \right) \prod_{n=1}^\infty \left( 1 + \frac{z}{n} \right) \) とはできない。\( \displaystyle \prod_{n=1}^\infty \left( 1 + \frac{z}{n} \right) \) に \( z=1 \) を代入すると、\( \displaystyle \prod_{n=1}^\infty \left( 1 + \frac{1}{n} \right) \geq \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n} \) となって発散する。

\( \pi \cot \pi z \) の部分分数展開

後で、\( \pi \cot \pi z \) の部分分数展開

\( \begin{eqnarray}
\pi \cot \pi z &=& \frac{1}{z} + \sum_{n=1}^\infty \frac{2z}{z^2-n^2} \tag{#}
\end{eqnarray} \)

を使う。この式は計算過程で現れた無限和を \(\sin \pi z\) と結びつけるために必要になる。証明は別記事 余接関数の部分分数展開 に記載。

証明

\(N\in {\bf N},\,D_N=\{z\in {\bf C} \,;\, |z| < N \} \) とする。まず、無限積 \( \displaystyle f(z) = \pi z \prod_{n=1}^\infty \left( 1 \,-\, \frac{z^2}{n^2} \right) \) が \(D_N \) 上で存在して、正則関数であることを示す。\( \displaystyle u_n(z) = \frac{z^2}{n^2} \) とおく。\( n \geq 2N \) のとき、 \( \displaystyle |u_n(z)| < \frac{N^2}{n^2} = \frac{1}{4} < 1 \) から

\( \begin{eqnarray}
|\log (1-u_n(z))|
&=& \left| u_n(z) + \frac{1}{2}u_n(z)^2 + \frac{1}{3}u_n(z)^3 + \cdots \right| \\
&\leq& \left| u_n(z) \right| + \left| \frac{1}{2}u_n(z)^2 \right| + \left| \frac{1}{3}u_n(z)^3 \right| + \cdots \\
&\leq& \left| u_n(z) \right| + \left| u_n(z) \right|^2 + \left| u_n(z) \right|^3 + \cdots \\
&=& \frac{\left| u_n(z) \right|}{1 \,-\, \left| u_n(z) \right|}
\leq \frac{4}{3}\left| u_n(z) \right|
< \frac{4N^2}{3n^2}
\end{eqnarray} \)

が得られる。ここで、対数は主値をとる。\( \displaystyle \sum_{n=2N}^\infty \frac{4N^2}{3n^2} = \frac{4N^2}{3} \zeta(2) \) だから Weierstrass の M-判定法により、\( \displaystyle g(z) = \sum_{n=2N}^\infty \log (1-u_n(z)) \) は \(D_N\) 上で一様に絶対収束して正則である。\(g(z)\) を項別微分する。

\( \begin{eqnarray}
g'(z)
&=& \sum_{n=2N}^\infty \frac{-u_n'(z)}{1-u_n(z)}
= \sum_{n=2N}^\infty \frac{-\frac{2z}{n^2}}{1-\frac{z^2}{n^2}} \\
&=& \sum_{n=2N}^\infty \frac{2z}{z^2\,-\,n^2} \\
\end{eqnarray} \)

\( \displaystyle f(z) = \pi z \prod_{n=1}^{2N-1} \left( 1 \,-\, \frac{z^2}{n^2}\right) \times e^{g(z)} \) と書けるから、\( f(z) \) は \(D_N\) 上で正則である。\(f(z)\) を微分すると、

\( \begin{eqnarray}
f'(z)
&=&
\pi \prod_{n=1}^{2N-1} \left( 1 \,-\, \frac{z^2}{n^2}\right) \times e^{g(z)} \\
&&\quad
\,-\, \pi z \sum_{n=1}^{2N-1} \frac{2z}{n^2}\prod_{j=1 \atop j\neq n}^{2N-1} \left( 1 \,-\, \frac{j^2}{n^2}\right) \times e^{g(z)} \\
&& \quad
+ \pi z \prod_{n=1}^{2N-1} \left( 1 \,-\, \frac{z^2}{n^2}\right) \times g'(z) \,e^{g(z)}
\end{eqnarray} \)

となる。\( e^{g(z)} \neq 0 \) なので、\( f(z) = 0 \) となるのは \( z\in {\bf Z} \) の場合のみである。したがって、\( z \not\in {\bf Z} \) に対して、

\( \begin{eqnarray}
\frac{f'(z)}{f(z)}
&=& \frac{1}{z} \,-\, \sum_{n=1}^{2N-1} \frac{2z}{n^2}\,\frac{1}{ 1 \,-\, \frac{z^2}{n^2}} + g'(z) \\
&=& \frac{1}{z} + \sum_{n=1}^{2N-1} \frac{2z}{ z^2 \,-\, n^2} + \sum_{n=2N}^\infty \frac{2z}{z^2\,-\,n^2} \\
&=& \frac{1}{z} + \sum_{n=1}^\infty \frac{2z}{z^2\,-\,n^2} \\
\end{eqnarray} \)

である。(#) より、\( \displaystyle \frac{f'(z)}{f(z)} = \pi \cot \pi z \) が得られる。これを解いて、\( f(z) = C \sin \pi z \) と書ける。\(C\) を定めるために \( \displaystyle \lim_{z\rightarrow 0}\frac{f(z)}{z} = \lim_{z\rightarrow 0}\frac{C\sin \pi z }{z} = \pi \, C \) とする。

\( \begin{eqnarray}
\lim_{z\rightarrow 0}\frac{f(z)}{z}
&=& \lim_{z\rightarrow 0} \pi \prod_{n=1}^{2N-1} \left( 1 \,-\, \frac{z^2}{n^2}\right) \times e^{g(z)} = \pi e^{\lim g(z)}
\end{eqnarray} \)

\( \displaystyle g(z) = \sum_{n=2N}^\infty \log \left( 1-\frac{z^2}{n^2} \right) \) は一様収束していたから、\( \displaystyle \lim_{z\rightarrow 0} g(z) = \sum_{n=2N}^\infty \log 1 = 0 \) となる。したがって、\(C=1\) となり、\( f(z) = \pi \sin \pi z \) と分かった。